2019年3月29日金曜日

コケムシと群体について

コケムシ(苔虫動物門)はすべての種が群体性です。
サンゴ(刺胞動物門)やイタボヤ(脊索動物門)も群体性ですが、
これらの動物門にはそれぞれイソギンチャクやマボヤなど単体性のものも存在します。

左がマボヤ、右がイタボヤの一種
どちらもホヤの仲間ですがイタボヤは数ミリ程度の小さな個虫が群体をつくります


ところが、単体性のコケムシは今のところ報告されていません。
(間隙性の種は触手冠をもつ常個虫は1個虫のみですが、
根のようなものが機能分化した異形個虫のため群体とされています)
このように、苔虫動物門は群体性に特化した特殊な動物門なのです。

ところで・・・

そもそも、群体性って一体何なんでしょう?
「無性生殖でクローンをつくる」とは言うものの、
「出芽」や「分裂」とは何が違うのでしょうか?

群体性の定義として最も的確なものは、次の3つの条件を満たすことです。

1.有性生殖ではなく無性生殖で娘個体を生みだす
2.外見では親個体と娘個体との区別がつかない
3.親個体と娘個体の間に生きた組織によるつながりがある

これらをすべて満たすとなると、
完全にちぎれて分かれてしまう「分裂」や、
娘個体が親子体より明らかに小さい「出芽」は、
厳密な意味での群体とは異なるというわけです。



なお、群体を形成する過程でも「出芽」の状態を経ることはよくあります。

オオマリコケムシの出芽

つまり、上で挙げた3つの条件は、
娘個虫の発生が完了した状態に当てはめて考えることになります。

ちなみに、多くの人にとって「群体」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、
ボルボックスだと思います。


高校(だったかな?)の生物でも習うので、名前を聞いたことがある人も多いのでは?
「細胞群体」をつくる渦鞭毛藻の仲間です。

このボルボックスのイメージがあるのでしょうか・・・
コケムシが群体性だと話すと、個虫は単細胞生物だと思われることがよくあります。
でも、動物の群体は、多細胞の個体が無性的に増えて群体を形成しているのです。

さらに面白いのは、コケムシでは群体内で個虫の機能分化が生じることです。
たとえば外敵を追い払う個虫、群体の上の掃除をする個虫、群体を支える個虫などなど、
じつに多種多様な個虫(異形個虫)が知られています。
外見では親個体と娘個体との区別がつかないという定義と矛盾するように思われますが、
「どちらが親個体なのかわからない」という点では合致しています。
そしてこれも、同じ遺伝子をもった多細胞生物による機能分化なのです。

細胞が機能分化することで多細胞生物の多様性を生み出すように、
多細胞の個虫が機能分化して、群体生物の多様性を生み出しているわけです。


クローンだから同じ遺伝子のはずなのに、不思議ですよね~。
こうした多形現象もコケムシ研究の面白いところです。
何がきっかけとなり、どのような遺伝子が発現して、
こうした機能分化が生じているのでしょうか?
興味が尽きません。

じつは僕はこうした群体性の進化も研究したいと思っていました。
今の自分の研究が、そのための足がかりになれば・・・と思っています。