2016年7月27日水曜日

2016年度第一回大槌ドレッジ&ROV調査【その7:BORAS野帳】

今回のドレッジ&ROV調査では、BORASの新しいアプリ 『BORAS野帳』 を使ってみました。

BORASについては過去の記事をご覧ください↓


さて、今回利用した 『BORAS野帳』 ですが、
アプリのアイコンが可愛らしくなっていました。


前回のアプリは、ただ生き物の写真を撮影してBORASに登録するだけしかできませんでしたが、
この新バージョンでは、さまざまな新しい機能が追加されていました!

今回私が利用してみた新機能は、主に次の2つです。

1.調査開始地点および終了地点の緯度経度の記録
2.プロジェクトの参考ファイルに底質の写真などの関連情報を登録


実際に利用方法を紹介する前に・・・
まずはBORASの階層構造を簡単にご説明します。
BORASのデータは次のような階層に分類されています。

グループ
プロジェクト
レコード

では、順番に説明します。

グループ ( 例: 調査ごとに作成 )
BORAS利用者は、まずはグループを作成することになります。
グループはいくつも作成することができるので、
たとえば毎回の調査ごとに作成しても良いわけです。
グループに、調査の他メンバーを招待して登録すれば、
グループ内の情報は調査メンバーで共有できます。
画像や分類情報のやり取り、情報交換に便利ですね!
グループには緯度経度情報は入れられませんので、
具体的な調査地点などはこの下の階層で分類するのが良いです。

プロジェクト ( 例: 地点ごとに作成 )
たとえば一回の調査でグループを作成した場合、
その下の階層にある「プロジェクト」は地点ごとに作成するのが一番整理しやすいです。
コドラート調査のように1地点で複数の枠採りを行うような場合には、
コドラートごとにプロジェクトを作成した方が、後々のデータ管理が楽です。
プロジェクトには緯度経度や水深といった位置情報を入力できます。
さらに、その情報を配下のレコードに一括で反映させることもできます。


ですので、各々のプロジェクト内に入れるレコードは、
すべて同じ地点情報をもっているものに限った方が良いです。

レコード ( 例: 生物種ごとに作成 )
レコードは、BORAS内の最小分類単位です。
いわば、これが目的の「生物観察情報」というわけです。
これまでのプロジェクトやグループは、これを分類・整理するための入れ物ですね。

レコードは基本的には単一個体もしくは単一種の情報になります。
しかし、これは道端を歩いていて見つけた生き物を登録する程度であれば可能ですが、
実際の調査では、何百~何千個体も得られる種がいたり、
分類学者でないと種分類が困難な場合も多々あります (>_<)
そこで、私の場合は、ある程度わかる分類群に分けた後は、
そのまま分類群単位でひとまとめにしてレコード登録しています。
「ヨコエビ類」 とか 「無足目ナマコ類」 とか 「ヤギ類」 とか・・・
明らかに別種だとわかるものや、個体数が少ない場合には、別レコードに分けています。

ちなみに、レコードにも緯度経度や水深といった位置情報は登録できますが、
これを何百というレコードごとに打ち込むのは、もはや苦行です (@。@
ここでも、地点ごとにプロジェクトを分けておけば、
ボタン一つでプロジェクト内のレコードに情報を反映させられるので便利ですね!



・・・というわけで、ここからようやく 『BORAS野帳』 の実際の利用例です (^^;

今回、調査が始まる前に、パソコンからBORAS本体を使って
『2016第一回大槌ドレッジ&ROV調査』 というグループを作成しました。
そして、その中に調査予定の全地点分のプロジェクトを作成しておきました。


すでにレコードが124も入っていますがお気になさらず…(--;


グループ内に、全地点分のプロジェクトが入っています。

タブレット(スマートフォンでも可)の 『BORAS野帳』 アプリを起動して、最新の情報に更新すると、
新しく作成したグループやプロジェクトがアプリ上に反映されます。

右上の 「 ↓ (下向き矢印) 」 を押せば、
BORAS本体のグループ情報などを 『BORAS野帳』 に更新できます。


 グループ内に、全地点(11地点)分のプロジェクトが作成されています。


グループに入ると、各プロジェクトを個別に選択可能です。

これで調査前の準備は完了です。
調査中は端末のGPSをオンにしておくことを忘れずに。

次の作業は、洋上で調査を開始するときに行います。
たとえば Station 2 のドレッジ調査を開始する場合、
『BORAS野帳』 を立ち上げて、「Station 2」のプロジェクトを開き、
ドレッジ投入に合わせて 「調査開始」 ボタンを押します。

ドレッジの曳網が終了し、揚収が完了したところで、
今度は 「調査終了」 ボタンを押します。

これで、「Station 2」 プロジェクトに、
調査開始地点と終了地点の緯度経度情報が記録されました。


つついて、ドレッジの中身をばんじゅうにドバーっと出した後、
そのばんじゅうの中身の様子を端末のカメラで撮影します。
再び 『BORAS野帳』 の 「Station 2」 プロジェクトを開き、
ばんじゅうの写真を関連ファイルとして登録します。

こんな感じ。

こうすると、後々レコードを眺めた際に、
「この生き物どんな底質の中から得られたんだっけ・・・?」 という疑問が生じても、
網の中に入っていた底質の様子などをすぐに参照することができます。

これを調査の間ずーっと続けていけば、調査を終えて陸に戻ったときには、
各プロジェクトに地点情報と底質写真が記録された状態となっているわけです。
あとは、これをアプリからBORAS本体にアップロードすればOK。

右上の 「 ↑ (上向き矢印) 」 を押せばアップロードできます。

今回は、各調査地点でCTD観測も実施したので、
後ほどパソコンから、各地点のプロジェクトにCTDデータも関連ファイルとして登録しました。

エクセルファイルも難なく登録できました。
これで、水温や塩分の情報も参照できるわけですね!

水深データは船の上でメモしておいて、それをあとでパソコンから打ち込みます。

この手作業は仕方ないか…

あとは、ソーティングで得た生物情報を、レコードとしてどんどん登録していくわけです!

ところで、今回はお試しで利用してみたので、
手持ちのGPSロガーと船のGPSの情報も記録しておき、
陸に戻ってから 『BORAS野帳』 の値と比較して、その精度の検証を行いました。
結果は、それほど悪くはなかったです。
周囲に山などが一切ない外洋だったことと、快晴だったことも影響しているかもしれません。
悪天候だったり、山の中だったりすると、状況は変わるかもしれませんね・・・。
『BORAS野帳』 の地点情報は、使用する端末のGPS精度に左右されるので、
できれば別にGPSロガーを持ち歩いて記録しておくのが安全です。

今回少し面倒だったのが、現場で急遽調査地点が増えた場合の対応です。
事前に作成したプロジェクトがない状態だったので、
この場合は 『BORAS野帳』 を使わずに記録し、陸に戻ってからパソコンで登録しました。
これは、事前に予備のプロジェクトをいくつか作成しておけば、
あとでプロジェクト名を変更するだけで解決できそうです。

あと、最後にもう一点・・・
ドレッジに対応させるのであれば、 「調査開始・終了」 以外に、
「投入・着底・曳網開始・巻上開始・離底・揚収」 ボタンがあるといいな~なんて…(ー▽ー;

2016年7月26日火曜日

2016年度第一回大槌ドレッジ&ROV調査【その6:震災前後】

じつは今回の調査地点の中には、震災前にドレッジ調査を行ったのと全く同じ場所もあります。
震災からすでに5年が経過していますが、生き物に変化はあったのでしょうか?
今回のドレッジ&ROV調査で明らかになった情報の一部をご紹介します。

まずはドレッジで得られた生き物を震災前後で比較してみましょう。

2009年の調査で得られたサンプル

2016年の調査で得られたサンプル

どちらも小石交じりの底質で、非常によく似ています。
生き物も、同種と思われるヤギやカイメン、大型のクモヒトデの仲間が採れています。

つづいて、ROVの映像に映っている生き物を確認してみましょう。
 ドレッジでも得られていましたが、ここに映っているオオハネガイは、
5年以上は生きていると思われます。
つまり、震災前からこの場所で暮らしていたということになります。

このサイズのコブコケムシの仲間も、
少なくとも5年以上は生きています。
やはり、震災前からこの場所でクモヒトデにからまれたりしていたのでしょう…

このツノコケムシも、枝の長さや群体の大きさから考えて、
5年以上は生きていると思われます。
今回、私が採集のために破壊してしまいましたが…
どうやら震災の影響は、少なくともこれらの生物にとっては、
さほど大きなダメージにはならなかったのかもしれません。

2016年7月25日月曜日

2016年度第一回大槌ドレッジ&ROV調査【その5:岩場のROV】

昨日ご紹介したのは砂泥底の映像でした。
今度は、もっとガシガシした岩場のROV調査の様子をご紹介します!

さて、調査初日のドレッジ調査のときから気になっていたことがあります・・・
それは、これ。
魚探の画面なのですが、硬い岩盤の上に何かモヤっとしたものが・・・
ここでドレッジを曳くと、岩場に付着して生活する生き物がたくさん得られました。
一体、海底はどんな様子なのでしょう・・・?
是非とも観察したい!

というわけで、ROV投入です!
すると・・・
 ヤギの大草原です!(草じゃないけど…)
魚探に映っていたもっさりした影は、ヤギだったのでしょうか。。

画面左には、オオハネガイも映っています。
泥に埋まっているのではなくて、こんな風に岩に貼りついていたんですね!

ヤギの上の方に目をやると・・・
立派なウミシダがしがみついています。

さらにヤギの足元を見てみると・・・(足じゃないけど…)
腕足動物だらけです。
だからドレッジで腕足動物が大量に採れていたんですね!
ここの海底は、ヤギと腕足動物がそこらじゅうにいました。

つづいてROVを走らせると、今度は私の目的の生き物が・・・!
 コブコケムシの仲間の大きな群体です!
クモヒトデがからみ付いていますね~落ち着くのでしょうか。

さっそく採集を試みたのですが・・・
スクレーパーで剥がしてから、マニピュレーターで掴もうとしたのですが、
なかなか上手く持つことができませんでした。
マニピュレーターの形状の修正や、採集方法を改良する必要がありそうです。

さらにROVを走らせていくと、今度は別のコケムシに遭遇。
なんと、先日私が再記載したツノコケムシです!
これまではドレッジで枝の破片こそ採集されていましたが、
ついに群体そのものを見つけることができました!

なお、こちらはスクレーパーで剥がしても持ち帰れないので、
已む無くスラープガンでの吸引を試みました。
が、結局、枝が何本か採集できただけでした…(T_T)


2016年7月24日日曜日

2016年度第一回大槌ドレッジ&ROV調査【その4:砂泥底のROV】

さて、昨日まではドレッジ調査についてご紹介しましたが、
今度はROVを使った調査についてご紹介しましょう!

まずは湾口部の砂泥底での調査。
ここでドレッジを曳くと、大量のコケムシの死殻が得られます。
どんな生き物がいるのか見てみようということで、ROVを潜らせてみると…

あちこちに、ツガルウニがいました。
このウニ、東北の少し深いところには比較的普通に見られるウニらしいのですが、
分類学的にはとても珍しいグループのウニなんだとか。 
今回、1個体をマニピュレータで採集しました。
ドレッジだと壊れてしまうことが多いので、貴重な生きたサンプルが得られて良かったです。

つづいて、ウミエラの仲間です。
昨日ご紹介したウミエラは、へにゃへにゃでなんとも残念な印象でしたが、
海底ではこんなに美しい姿をしています。
この羽のように広がっている部分に触手をもったポリプが並んでいて、
流れてくるプランクトンを捕まえて食べています。

こちらはハナガサクラゲ。
クラゲがなんで海底にへばりついてるんだ?と思いますが、
じつはこのクラゲ、もっぱら底生生活を行っているそうです。
不思議ですね~。

さて、次の生き物は・・・
ん? こちらは・・・
なんでしょう?
ホヤの仲間のように見えますが・・・

幸いドレッジでこれと思われるサンプルが得られているので、
後日、詳細に観察してみます。

2016年7月23日土曜日

2016年度第一回大槌ドレッジ&ROV調査【その3:生き物たち】

ソーティングで仕分けられた生き物たちは、その後は麻酔などを経て標本になるわけですが、
固定する前に、なるべく生きた姿の写真を撮影して残すようにしています。
色彩や柔らかい形質など、標本では判別が難しい情報を残すためですが、
その他にも、図鑑作成やアウトリーチ活動にも活用しています。

今回は、2014年の調査では実施できなかった地点でもドレッジを曳きました。
そのおかげか、2014年の調査では得られなかった生き物も多数得られました。
今日はそんな動物たちをいくつかご紹介します。

こちらはオオハネガイ。
震災前にも採れたことはありますが、震災後に得られたのはこれが初です。
殻に成長線があるのでそれを数えてみたところ、少なくとも5才以上のようです。

こちらは二枚貝に似ていますが、これはじつはホウズキチョウチンの仲間(腕足動物)です。
大量に採れて、バットの中が芋洗い状態です。

こちらはサンゴではなく、コケムシです。
コブコケムシの仲間です。
 これを粉々にせずに上手く採集する方法を模索中・・・

こちらもコケムシの仲間です。
淡い桜色が非常に美しい群体です。

こちらはウミエラの仲間(刺胞動物)です。
なんだか、しょぼくれた格好をしていますが、海底では立派な御姿なんです…
その様子は、明日ご紹介しますね。

こちらもウミエラの仲間です。
上の種と同じくヤナギウミエラ科の一種だとは思うのですが、
おそらく属が異なります。

こちらはヤギの仲間
ウミエラ同様、サンゴの仲間(刺胞動物)です。

 ヤギはこの他にも数種類得られました。

そんなヤギの枝をよーく見てみると…
何かが絡み付いています!
これ、じつはテヅルモヅルの仲間なんです。
テヅルモヅルはクモヒトデ綱に属すのですが、
この子のように腕が分岐しない種もいるんですね~。

こちらのもじゃもじゃは、腕が分岐するタイプのテヅルモヅルの仲間です。

一昨日紹介した、ドレッジの入り口にひっかかって上がってきた大きなもじゃもじゃも、
じつはテヅルモヅルの仲間です。
あちらはもっと細かく腕が分岐していて、なんだか絡まってしまいそうでした・・・。
あそこまで大きいと、標本にするのも一苦労ですが、
こちらの標本は手ごろなサイズだったので、撮影もしやすかったです。

2016年7月22日金曜日

2016年度第一回大槌ドレッジ&ROV調査【その2:ソーティング】

昨日ご紹介したドレッジ調査で得られた大量の泥と生き物ですが、
これらは陸に持ち帰ってから、洗いカゴや篩(ふるい)を使って洗い出しなどしていきます。
そして、泥などを洗い流した後の生き物たちを、分類群ごとに細かく選り分けていきます。
「ソーティング」と呼ばれる作業です。

ソーティングまで辿り着けば、あとは実験室内でも作業が可能なのですが、
その前の泥を洗い流す作業は屋外でしかできません。

海況に恵まれ、さらに貴重なサンプルも多数得られ、「ばんじゅう」の数が増えてしまい…
屋外での作業は夜まで続いたのでした。。

このあと、ようやく室内に入ってソーティングが始まります。

2016年7月21日木曜日

2016年度第一回大槌ドレッジ&ROV調査【その1:ドレッジ】

6月末に、大槌湾口部から沖にかけての海域で、
ドレッジとROVを使った底生生物調査を実施しました。

他大学などの研究者もお誘いしたところ、
ゴカイ、ウニ、クマムシ(&胴甲動物)を対象としている若手分類学者が集まってくれました!

調査当日は天候にも恵まれ、意気揚々と出港です!

期待に胸が膨らみます。

鏡のような水面…これ、じつは湾の外なんです!
沖に出てもまったく波がありません。
こんなに穏やかな姿を見るのは初めてです!

調査地点に到着すると、まずはCTDを使って水温や塩分などの環境データを収集。
つづいて、ドレッジを準備して投入に備えます。

ドレッジを曳く場所は事前に海底地形図などを見て決めていますが、
現地でも魚探の映像や地形図を見て、投入地点の最終判断をします。

調査中は様々な項目を記録していきます。
緯度・経度や水深の情報は、いくつかの地点でそれぞれ記録をとっていきます。

1.ドレッジ投入地点
2.ドレッジ着底地点
3.曳網開始地点
4.巻上げ開始地点
5.ドレッジ離底地点(わからないことも…)
6.ドレッジ揚収地点

このほかに、繰り出したワイヤーの長さや曳網時間なども記録します。
ワイヤーの長さは、今後、自分が別の場所でドレッジを曳く際の参考にもなります。

・・・というわけで、調査中の写真はほとんどありません(^^;
とりあえず、ドレッジで採れたものは海底の底質ごと「ばんじゅう」に入れていきます。
調査が進んでいくと、サンプルの入った「ばんじゅう」が山積みに…
陸に帰ってから、この泥の中から生き物たちを拾い集めていくわけです。

ところで、今回ある地点で、ドレッジの入り口に引っかかってきた生き物がいました。
さて、このもじゃもじゃの正体は・・・!?(答えは後日、得られたサンプル紹介の中で…)

2016年7月20日水曜日

調査とかワークショップとか一般公開とか

ご無沙汰しております。。。

6月後半から大きなイベントが立て続けにあったため、
しばらくブログが更新できませんでした。
ようやく山場を越えたので、この一ヶ月間の活動報告をしていきますね!

順番としては・・・

1.大槌でのドレッジ&ROV調査
2.タイでの触手冠動物ワークショップ
3.大槌での一般公開

なんというか、ものすごく濃厚な一ヶ月間でした~!


そんなことを言いつつ、明日は大槌湾での付着板再設置なので、
とりあえず今夜はその準備を・・・(^ー^;