2014年10月27日月曜日

今年の調査を振り返る

[前サイトからの移設記事]

先週はクリスマスをはさんで、大槌湾での今年最後の潜水調査でした。
クリスマスの朝には、前夜に仕掛けたカニ籠に大きなアイナメが入っていました。
靴下の代わりにカニ籠をぶら下げても、サンタさんはちゃんとプレゼントを入れてくれるようです。

さて、今年もあと数時間。あっという間ですね!
今年もいろんな調査を行いました。
潜ったり、船に乗ったり、池の水をすくったり・・・
フィールドに出ることがほとんどでしたが、分類学を行うためには標本調査も欠かせません。
そこで、今年の大晦日は、11月に行った標本調査を振り返ってみようと思います。

秋を感じる国立自然史博物館の裏口

イベントラッシュが一段落した11月末、一週間ほど休暇をとってアメリカの国立自然史博物館に行ってきました。
国立自然史博物館はワシントンDCにあるスミソニアン博物館群の一つで、映画『ナイトミュージアム』の舞台にもなったところです。
ただ、休暇と言っても観光はほとんどせず、主たる目的はコケムシとシャミセンガイの標本観察でした。
今回の狙いは、スナツブコケムシの仲間とスズメガイダマシの仲間のタイプ標本。
ちなみにタイプ標本(模式標本)とは、生き物の名前を付ける際に観察した標本、いわば名前をつける元となった標本のことです。

日本で得られたスナツブコケムシの仲間(スケール:1 mm)

近年、日本近海ではスナツブコケムシという数mmサイズのコケムシの仲間がたくさん得られています。
しかし、それらの種を正確に分類するためには、過去に得られたスナツブコケムシの標本を観察し、自分の手元にある標本と比較することが必要です。
スナツブコケムシの仲間は主に西太平洋から報告されており、その最大のコレクションの一つが、20世紀初めのアルバトロス号による調査でフィリピンを中心とした海域から得られた標本たちです。
今回は、スミソニアンに保管されているこの標本たちを観察してきました。
ちなみに、これらの標本は約80年前の原記載(名前を付けた論文)以降は観察されたことがなかったようで、今回がじつに80年ぶりの観察となりました。

ドイツLeitz社製の顕微鏡。古いけどレンズの性能は最新の顕微鏡にも勝ります。

「百聞は一見にしかず」とはまさにこのことで、80年前の記載文には記されていなかった形態情報を多数得ることができました。
分類学では、記載当時は観察されていなかった形質が現在では重要な分類形質となっている場合も多く、こうしてオリジナルの標本が残されているおかげで、私たちは自分の手元にある標本が何者であるかを分類することができるのです。


なお、スズメガイダマシの仲間(腕足動物)については、日本から複数の報告例はあるものの、やはりタイプ標本の観察結果に基づいて分類が成された研究はこれまでありませんでした。
こちらも今後、今回の標本調査の結果を踏まえて分類を再検討する必要がありそうです。


ちなみに、今回の休暇では5時間ほど観光する時間もつくることができました。
その時間で見学した博物館は・・・
  航空宇宙博物館
  インディアン博物館
  自然史博物館
  ナショナルギャラリー
でした。
かなり駆け足だったので、今度はゆっくり訪れたいものです。


今回の標本調査では、タイプ標本に基づく分類の重要性を再認識しました。
(今回に限らず、いつも思うことなんですけどね~)
これらの成果の公表は、来年の目標にしたいと思います。

それでは、よいお年を!

30 Dec. 2013